イスタンブールの朝
昨日泊まった安宿は、なんと7€。さすがに7€だけあって、狭いわ、うるさいわ、汚いわの三拍子が揃っていた。まぁ、昨夜は本当に寝るだけだったので、それで充分だった。外にいるよりはマシだろう。でも、ここに何泊もする気にはなれなかったので、翌朝チェックアウトしてすぐに宿を出た。
そういえば、このホテルのフロントのお兄ちゃんは、『地球の歩き方』に「フロントのスタッフ」という注釈付きで顔写真が載っていた人だった。人口6649万人のトルコで、写真で見たことのある人に出会うなんて。
最初に訪ねたのは、インターネットを無料で使える宿だった。でも、シングルは一泊30€と言われて諦めた。
もう一軒、ブルーモスクの近くにある宿を訪ねると、フロントでいきなり、「君、日本人?これ知ってる?」と、宇多田ヒカルの「traveling」を聴かされた。
受付に座ったまま、彼は頭を揺らしてノリノリで宇多田ヒカルの歌を聴きながら、「○×△※□◎って、どういう意味?」と、そう聞こえるらしい歌詞について質問してきた。
「うーん、(あなたの言っていることが)わからない」
と答えると、「本当に日本人なの?」と聞かれたので、「その歌のタイトルは『traveling』で、歌っているのは宇多田ヒカルだよ」と教えた。
「ああ、そうなんだ?彼女、有名なの?」と急にご機嫌になり、宿代をスペシャルプライス――本当に特別価格なのかは分からない――の、一泊朝食付き25US$にしてくれた。まぁいいかと思い、そこに泊まることにした。
暖房付きで清潔だし、立地も良く、なかなかの宿だ。洗濯物を乾かすためにも、まだ暖房は欠かせない。暖房器具の上に引っ掛けておくと、すぐに乾くのだ。
荷物を部屋に置いてから、朝ご飯を買いに外へ出た。


ブルーモスク(スルタン・アフメット・ジャーミィ)へ
数秒後、自称ビジネスマンだという男性から声をかけられた。「どこから来たの?何をしているんだい?困ったことがあったら言ってくれ」と非常に分かりやすく警戒すべき相手だったので、美味しいパン屋やトルコのおすすめなんかを聞いて、食べ物を買ったあと、有無を言わせない笑顔で、「あとは自分でやれるわ。どうもありがとう!」と言って別れた。
ブルーモスク前の公園で、ベンチに座って新聞を読みふけっていた外国人男性の隣に腰を下ろし、朝ご飯にすることにした。誰かが隣にいれば、声もかけられにくいはずだ。
ポアチャという調理パンを二つと、砂糖の入っていない飲むヨーグルト・アイランを買って、2YTL(160円)。ユーロ圏に比べると安いし、とっても美味しい。トルコ料理の味付けは私の好みに合っている。
目の前に立つブルーモスクは、これ以上ないほど均整の取れた美しい建築物だ。朝ご飯を食べ終え、早速ブルーモスクとアヤソフィアを見に行くことにした。

ブルーモスク〜地下宮殿へ
ブルーモスクに向かって歩き始めること3分。また別の男性が声をかけてきた。「お金ないから」と先回りして言うと、「違うよ!日本人だと思ったから、ただ話したかっただけなんだ。僕は今日フリーだから」と言ってついて来る。
追い払ってもよかったけれど、どうせまた一人になれば別の人がやって来るだろう。そう思い、適当にかわしながら、尋ねなくても勝手に話してくれるトルコの歴史や建物の説明を聞くことにした。
基本的について来られること自体は問題ない。相手について行かなければ良いだけだ。
「こっちは暖かいね」と言うと、「つい二日前くらいまでは、とても寒かったんだ。トルコの天気は変わりやすいんだよ。トルコ人女性の気持ちと一緒でね。日本人女性はそうじゃなきゃいいけど」と返ってきた。「日本人女性も似たようなものだと思うよ」と答えておいた。
まずは、世界で最も美しいモスクと評されるブルーモスクことスルタンアフメット・ジャーミィを見学した。モスクは入場料がかからないので嬉しい。
6本のミナーレ(尖塔)を持つイスラム寺院は、世界的にも珍しい。なんでも、スルタンが「黄金(アルトゥン)で作れ」と命じたものを、建築家が「6(アルトゥ)」と聞き間違えたからなのだとか。
260もある小窓にはステンドグラスが張り巡らされ、そこから差し込む光が、息を呑むほど美しい。
床一面に敷かれた絨毯には、一人ひとりが座るための空間が織り込まれていた。手足を置く場所や頭をつける場所、メッカの方向などが分かるようになっている。
ブルーモスクを見学したあとは、近くの地下宮殿へ行った。まるで『ロード・オブ・ザ・リング』の世界だ。
4~6世紀に造られた地下貯水池で、今も地面には水が溜まり、天井からは時折、ポツン、ポツンと水滴が落ちてくる。一番奥では、メドゥーサの首がゴロンと横向きになっていた。
ただ、ここは、入場料のわりには「ふーん」という感じだった。




アヤソフィア
地上に出ると、さっきの男性がまた声をかけてきた。入場料が必要な場所には、絶対について来ない(笑)。カフェに行こうとか、近くにカズンの店があるから行ってみないかとか言ってくる。「お腹は空いていないし、アヤソフィアに行きたいし、忙しいから、カズンの店には行けない」と言うと、いったん引き下がった。その隙に、さっさとアヤソフィアへ入った。
ビザンツ建築の最高峰、アヤソフィア。
トルコの長い歴史の中で、さまざまな宗教の祈りの場として使われてきたこの建物は、当時は博物館になっていた。そして、入場料は結構高い。日本円で1600円。
内部のモザイク画には損傷の激しいものもあるが、それがかえって、過ぎ去った時間の長さを感じさせる。
アヤソフィアでは、社会科見学らしい子供たちの団体に出会った。
みんな笑顔で、「Hi!」「どこから来たの?」「日本人?」などと声をかけ、手を振っていく。
この可愛い子供たちには、十数年後もこの笑顔のままでいてほしい。少なくとも、「カズンの店に行かない?」とか「良い絨毯屋を知っているんだ」とは言わずに(笑)。
アヤソフィアを出ると、またさっきの男性が待ち構えていた。
「もう疲れたから、ホテルに帰るね」と言うと、「なぜ君は僕の誘いをことごとく断るんだ!分からないよ!ランチもダメ、ディナーもダメ、カズンの店にも行かない。迷惑なら、はっきりそう言ってくれ!」とわめき始めた。
「OK!はっきり言うね。一人になりたいの」と答えると、まさか本当にそんなことを言われるとは思っていなかったような顔をして、彼はしぶしぶ引き下がった。
私が手を振って立ち去ろうとすると、「でも、次に会ったときはディナーに行こう!約束だよ!」と、まだ叫んでいる。
往生際が悪いなぁ。アヤソフィアのそばは、もう通れなくなった。


グランドバザール
いったん宿に戻って荷物を整理してから、今度はグランドバザールへ繰り出した。3分後、また別の男の子が声をかけてきた。「どこに行くの?」と聞かれたので、グランドバザールだと答えると、「一緒に行ってもいい?」と言う。
彼は英語があまり得意そうではなく、客引きとは少し違う印象だった。向かう方向が同じならいいかと思い、話をしながら歩いた。
彼は24歳で、イスタンブール大学の学生だった。政治経済を専攻しているという。本当に大学生なのか少し疑っていたので、イスタンブール大学のそばを通ったとき、「学校の中を見てみたいんだけど、入れるかな?」と聞いてみた。
彼は門を指して、「あそこに警備員がいるだろう?学生証を見せないと入れないんだよ」と言った。まぁ、本当に大学生、なのかな?
それから彼は、「イスタンブールには、旅行者をだまそうとする悪い奴がたくさんいるからね。誰も信じちゃダメだよ!ノーバディーだ」と力説した。
あまりの力説ぶりに、「君はどうなのよ?」とは聞けなかった。「みんな君に声をかけたがっているんだから、僕のそばから離れないようにしてね」そう言って、エスコートしてくれた。
一緒にグランドバザールやモスクを見学し、途中でザクロの生搾りジュースを飲んだ。ザクロが大きくてびっくりした。
本当に生搾りなので少し渋い。でも、ザクロには美肌効果や老化を抑える効果があるらしいので、飲んでおかないとね。日本では高いもの。
その後もイスタンブールの街を歩きながら、兵役に行ったときの話や家族の話を聞いた。
彼はしきりに「キリスト教のパパが亡くなった」と話していたけれど、それがまさかローマ法王のことだとは、そのときは思いもしなかった。
テレビもない宿に泊まっていたので、全然知らなかったのだ。トルコではなくイタリアへ行っていたら、大変だったかもしれない。
昼ご飯を食べていなかったので、「トルコの煮込み料理が食べたいんだけど」と彼に相談すると、近くの店で煮込み料理があるかどうかを聞いてくれた。
初めて食べるトルコの煮込み料理、タス・ケバブ。4YTL、約320円。ピラフの上に肉とジャガイモの煮込みがのっていて、とても美味しかった。
友達からの遊びの誘いを何度も断りながら、私の観光に付き合ってくれた。彼は本当に親切な人だったらしい。
私が、「明日はオトガルに行って、バスの時間を調べてくる」と言うと、彼は自分の電話番号を紙に書き、「何か困ったことがあったら電話してね。力になるから」と言って渡してくれた。
日本で、旅行中の外国人にここまで親切にできる青年は、どのくらいいるだろう。




ネットカフェにて
彼と別れ、宿のすぐそばにあるインターネットカフェへ行った。料金は1時間2YTL、約160円。ギリシャでは1時間3€、約420円だったので、とても安い。
OCNのページにアクセスして、webから自宅のメールをチェックする。すると、信じられないメールが届いていた。
ELLEGARDENのボーカル、細美さんからだ!
『女の子のバックパッカーはマジで危ないから、絶対ヒッチハイクはするなよ!気をつけて行っておいで!帰ってきたらライブで会おう!』
あぁ、もう何にも負ける気がしない。
Location
■ブルーモスクSultan Ahmed Mosque
Sultan Ahmet, Atmeydanı Cd. No:7, 34122 Fatih/İstanbul, Turkey

