トルコ人家族との出会い
やっと落ち着いたかなと思っていると、私が座っていた6人乗りのコンパートメントに、トルコ人の一家がぞろぞろと入ってきた。「乗ってもいい?」と聞かれているんだと思うけど、トルコ語がさっぱり分からない。7人くらいの一家が一斉に私に話しかけてくる。
‥‥どうしよう、「ジャポン」しか聞き取れなかった。「わー‥‥」という状態の私に、14歳くらいの男の子が自身を指さしながら「タルキッシュ、タルキッシュ!」と説明してくれた。うん、それだけは全力で分かってるよ。可愛い娘さんが「荷物を上に上げてあげようか」とジェスチャーで示してくれるので、足元に置いていたバックパックを荷台に乗せるのを手伝ってもらった。
一家もボストンバッグや紙袋、さらに米などの大量の食材を、荷台に詰め込み始めた。ひと段落してみんながギューギューになって席に着くと、お母さんが歌を歌い始めた。お祭り好きのヌーチョがこれを聞き付けやって来て、自分の国の歌を歌いだした。「最後は君が日本の歌を歌うんだ」とヌーチョに言われて『異邦人』を歌おうと心に決めていたのに、怖い顔をした車掌さんが現れて、家族を怒鳴りつけ、別の車両へと追いやってしまった。
寂しそうな顔をして、娘さんとお母さんが私に抱擁してくれたので、私は何事か解らないまま、ついさっき覚えたばかりのトルコ語で「ギュレギュレ」と言って見送った。見送る側が使う「さようなら」だ。後からヌーチョが「この車両はツーリスト専用で、一般の客は別の車両に乗らなきゃいけないみたいだね」と教えてくれた。「へぇ」とうなずいて、顔を見合わせてから、二人同時に「Stupid(馬鹿らしい)」と言った。
困った人々
それからしばらくして、再びコンパートメントにさっきの車掌さんが現れて、私に「どこから来たの?」と聞いてきた。日本だと答えると、いきなり手にキスをして、「21歳?22歳?」と聞く。「27だ」と言うと、薬指を確かめて「結婚はしていないの?」と言う。シングルだと答えると、「じゃぁ結婚しよう」といきなり結婚を申し込まれた。「私は10年間妻がいない。1人子供がいるだけだ」って、いや、結構ですから。きっぱりお断りをしたら泣きまねをしながら出て行った。これが噂のトルコ男か…まったく先が思いやられる。。。
別の車掌さんからはチャイをご馳走になるし、いたれりつくせりなんだけど。ヌーチョが「他人からもらった飲み物なんかを簡単に飲んじゃダメだよー」と言うけど、そんな事は百も承知だ。でも旅先では、どうしても断れない場面が2割くらいはあるのよ。「それにしても綺麗な女の子には親切だなぁ」とヌーチョは苦笑しながらそう言った。私は綺麗でもないし、むしろ逞しい部類でしょうよ。だから違うんだよ、ヌーチョ。彼らは女の子を見たらとりあえず口説いとくのがマナーだと思っているだけなの。
この電車は、外国から入国する人と、トルコに住む人とで車両を分けてあり、トルコの人が乗る側の車両を探検してきたヌーチョは、「あっちのトイレは汚いし、紙もないんだ」と憤慨していた。観光が大事な産業でもある国なので「お客様は神様です」的な考え方は、ある程度仕方がないとは思う。だけど、日本人客には手を取って歓迎し、トルコ人客には怒鳴り声を上げ、ギリシャ人とは忌々しそうに喧嘩する。その態度の違いを、私はどう受け止めればよいのか分からなかった。ギリシャとトルコの間には長い歴史的な背景がある。ほんの数日旅をしている私が、簡単に良し悪しを語れる話ではないのだけれど。そんなことをぼんやりと考えながら、イスタンブールまでの時間を過ごした。
21時過ぎ、外はもう真っ暗。すると通路の方から子供の声が聞こえてきた。昼間出会ったトルコ人一家が私にお別れを言いに、車掌さんに怒鳴られながら、わざわざ会いに来てくれたのだ。娘さんとお母さんは「元気で旅を続けてね!」と抱きしめてくれた。
車掌さんはルールを守っていただけなのだろう。でも、怒鳴られながらも車両を渡って最後に挨拶をしに来てくれたトルコ人一家の優しさは、ずっと心に残っている。
窓の外にミナレットが見え始めた。どこかのモスクだろうか。イスタンブールに着いたのだ。スィルケジ駅の色とりどりのモザイクは嘘みたいに綺麗。
長旅が終わりみんなが伸びをしながら電車から降りはじめた。ヌーチョは中国人とスウェーデン人のグループと私をまとめて、一緒に宿探しをする気でいるらしい。そろそろ一人になりたいんだけどなぁ…。仕方なく付き合って行ったユースホステルは、改装中で開いてなかったので、ガイドブックに載っていた駅の近くの安宿を提案すると、数人が意気投合。タクシーでそこに向ってみたけど、その日はトルコのホリデーだったため、シングルルームが一部屋しか空いていなかった。年輩の男性が「君はここに泊まったらいいじゃないか」と言ってくれているのに、ヌーチョときたら「えー!一緒に泊まるんじゃなかったの!?」とうるさかったので、無視して一人でそこに泊まらせてもらうことにした。途中まで仲良くしてたけど、最後の最後で、ちょっと残念な人になってしまった。私にその気がないと分かると「タクシー代は君が払うんだよ」だって。ムカっときたので、タクシー代を全額支払ってグッバイフォーエバー。メテオラでパーティーを組んだダンとデイビットが素敵な人たちだっただけに、余計に残念に思った。
Location
■スィルケジ駅Sirkeci Station
Hocapasa Mah. Ankara Cad., Eminonu, Fatih, Istanbul, Turkey
